文化
世界史上、もっとも大きな影響を及ぼした遊牧民は、東ヨーロッパのバルカン半島や西アジアのアナトリア半島から黒海北岸平原・キプチャク草原・アゼルバイジャン・カフカス・イラン高原を経て中央アジアから北アジアのモンゴル高原まで至るY字の帯状に広がった騎馬遊牧民たちである。彼らは、キンメリア・スキタイの時代から、モンゴル帝国を経て近代に至るまでユーラシア大陸全域の歴史に関わり、遊牧生活によって涵養された騎射の技術と卓越した組織力に裏打ちされたその軍事力で歴史を動かしてきた。
まとまった勢力として文献資料に初めてあらわれるのは、キンメリア人であり、紀元前9世紀頃、南ロシア平原に勢力を形成したとされる。これに次ぎ、同じく南ロシア平原にスキュタイ人が現れる。スキュタイ人については、ヘロドトスの書物の記載が有名である。同じく歴史に登場するアケメネス朝もまた遊牧民を支配層とした国家である。このスキュタイとアケメネス朝が後に続く広域国家の二大源流と言われる。
近代以前の殆どの広域国家・帝国には遊牧民が関与している。中華帝国を例に取れば、漢・宋・明以外は遊牧民の王朝そのものか、その援助によって成立していた。ただし、漢もまた武帝以前は匈奴の属国も同然であり以後も姻戚関係にあり続けた。さらに宋の建国の背景となった中核軍事集団は沙陀突厥系の遊牧民軍団を源流としていた事と、明が王朝の軍事力として多くのモンゴル集団を取り込んでいる事を考慮すると、遊牧民の支配を跳ね返した漢民族王朝と呼ばれることの多いこれら二王朝も、その政権維持を支える軍事力の背景は遊牧民の影とけっして無縁ではない。